20240403

鬼頭莫宏ヴァンデミエールの翼』感想

今日は『ヴァンデミエールの翼』を読んだ。僕は鬼頭莫宏は大好きなのだが、実は読んでいなかった。時間は全然ないはずなのに、京都にいた頃より不思議と漫画を読む手がすすむ。

京都にいた頃は、いつでも漫画を読めた。いつも昼まで寝ていた。ベッドの上でスマホをいじるか、漫画の話をするか、ボードゲームをするか。それだけで時間が過ぎていった。

今は違う。当たり前の日常だったはずのものが日にわずかな時間しか許されない特別なものになった。揺れる満員電車の中で転びそうになりながら必死にかじりついた。その時間は救いだった。会社が特別に悪いところだとは思わないけど、それでも僕にはやっぱりこれしかないと思った。こんな気持ち、いつまで続くのかな。いずれ僕も、鬼頭莫宏麻枝准のことなんか忘れて疲れた顔で日々をやり過ごすだけの存在になるのかもしれない。

さて、『ヴァンデミエールの翼』だ。鬼頭莫宏のデビュー作。正直1巻はまだ持ち味が出てないように思った。賢い大人ぶって難しい言葉をあえて使う少年のような不自然な喋り方は変わらないが。鬼頭莫宏の自分を誤魔化し誤魔化し生きる人の偽善を挑発するやり口にもまだかたさがある。

ところが2巻になると変わる。意味があるのかないのかわからない死。キャラクターを救いたいのかそれとはまったく逆に罰を与えたいのかわからない展開。内容の過酷さと反比例してどんどん自由になっていく描き口。これだよこれ。これこそが僕の好きな鬼頭莫宏だ。

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空を飛び死へと向かう美少女の表象。それは95年以降の美少女文化ではしつこいほど繰り返されてきたように思う(もっと以前に彼らが参照した元ネタは多くあるのだろうが)。

僕も美少女になり、空を飛びたい。そう何度思ったことだろうか。

仮に、死の代わりに美少女の姿で空を飛べるとしたら、どうだろう。

死をもってナルシシズムが完全に満たされるその瞬間。

いや、僕は拒否するだろう。そんな度胸なんて初めからないのだから。本当はこの世界に心の底から不満を持っているわけじゃない。そんな自分が、少し嫌になった。