20230916

田中ユタカ

田中ユタカほど、性愛に真剣に向き合った漫画家がいるだろうか。

 

僕の仕事は、エッチな漫画で人をしあわせにすることです。 子どものころ、まさか自分の仕事がエッチな漫画を描くことになるとはもちろん夢にも思いませんでした。 だけどこれが、僕の運命で、僕の天職でした。 僕がいちばん人のために出来ることです。 心を込めて天職をがんばります。

 

田中ユタカの2020年のツイートだ。エッチな漫画で人を幸せにする。この姿勢は一貫している。たとえば、1996年の『人魚姫のキス』(富士美コミックス)のあとがきで、田中ユタカはこう書いている。

 

いい仕事がしたい。もっと、もっといい仕事がしたい。
原稿料をあげてくれとかその類の話じゃなくて、もっと、もっと、心のこもった、あたたかい、熱い作品を描けるようになりたい。読んでくれる人の胸の奥に届く作品を描けるようになりたい。

 

ここで、田中ユタカの経歴を簡単に振り返る。白泉社の青年誌『月刊アニマルハウス』(『ベルセルク』が最初に載った雑誌だ)でデビュー後、『COMICオレンジクラブ』、『ファンタジィカクテル(FANTASY COCKTAIL)』などの成年誌で活躍した。その後、『月刊アニマルハウス』の後継誌、『月刊ヤングアニマル』で青年誌に再び進出、代表作『愛人』を描き上げる。

 

田中ユタカを育てたのは90年代の自由なエロ漫画の風土だった。そこで理想の愛のかたちをいかにして表現すればいいのか、模索していった。

 

(「しようか?」『初夜「ヴァージン・ナイト」』BAMBOO COMICS)

(「気持ちのいい発見」『気持ちのいい発見』オレンジコミックス)

では、そんなHマンガ家を天職と自称する田中ユタカにとって、性とは、恋とは、愛とは、なんだったのだろうか。同書のあとがきから、また引用する。

 

恋をすると、いいにしろ、悪いにしろ、今まで築いてきた自分は破壊される(自分を安全に確保しといたままの恋を、私は今だに見たことがない) とりわけプライドは根こそぎやられてしまう。オレは今ある自分を壊すために人は恋をするんじゃないかと思う。

 

田中ユタカの漫画を読み解くうえで「恋の破壊性」は非常に重要なキーワードだと思う。それでは、田中ユタカはどんな風にして「恋の破壊性」を表現したのだろうか? 明日のブログで解説したい。

 

田中ユタカ②につづく