20230919

田中ユタカ『愛人』論を書くために

 

今回もまだ田中ユタカ論『愛人』編は書けません(時間がない)。

かといって、こんなサブタイトルで何か書いてしまったらどんどんハードルが上がってしまう。

 

田中ユタカはどんな辛い境遇にある人でも自らの生を肯定できるように、と思って『愛人』を書いたんだと思うのだが、「毎回最終回だと思って書いた」という本人の言*1にもあるようにエロ漫画全盛期のトップ作家の一人が一話ごとにめちゃくちゃなエネルギーをかけて書き上げた大変な労作になっている。本人初めての長編への挑戦ということもあり、これまでの短編とあまり変わらないようにみえる構成の話が最初は続くのだが、徐々に新しい境地に辿り着いていく。『愛人』論で書かなきゃいけないのはその+αが何なのかということになる。

 

僕は生きててよかった!と思う瞬間は何だろうか。記憶を辿っていくと、友達と馬鹿話を語り明かして徹夜した時とか、人が自分をちゃんと認めてくれた時とか、そんなことを思い出す。結局、どれだけ濃厚な関係を人と築けるか、というところに人の人生はかかっているんだといつも思っている。

 

田中ユタカが『愛人』で成功したのはどうにもその「濃い関係」こそがキーワードな気がしてならない。後年に描いた『ミミア姫』に置いてきぼり感を食らうのは、濃い関係を『愛人』ほどに描けていないからではないか、そんな気がする。そうなると、『愛人』論は田中ユタカが「濃い関係」を描く上でどんなことをしたのか、ということに焦点が当たるだろう。

*1:ソースは確か単行本のあとがきとか新装版のインタビューとかだと思う