エヴァ16話「死に至る病、そして」 感想

何もやる気が起きない。

やらなければいけないことはたくさんあるはずなのに、ベッドから動けない。

一日中、漠然とした不安と正体のわからない恐怖をやり過ごすだけの日。

眠剤を流し込んでなんとか寝たけど、二時間もすれば目が覚めてしまう。

きっと不安が強すぎるんだ。

そうして起きだして見たエヴァ16話「死に至る病、そして」はあまりにもよかった。思わず二回見てしまったよ。

 

「ユーアーナンバーワン!」

 

シンクロ率の試験でミサトさんに褒められたことから始まるこの回は、気が大きくなったシンジが独断専行、使徒レリエルの内部に取り込まれてしまう。

 

シンジは自分に自信がない。だからひとたび自分を肯定できた瞬間、いつも自分を卑下している分、自己評価が上に振り切れてしまう。そのとき突如として現れるのは、他者より自分の方が上だという優越感情である。「お手本を見せてやるよ!」そう言ってシンジは戦いに赴いていき、独断専行を働くことになる。

 

僕もシンジと同じだ。人に褒められたり、自分の能力が示された場面になると、急に優越感情が顔を出す。「俺って〇〇(普段僕が劣等感を感じている人)よりも××できるよね!」「こいつらよりよっぽど俺の方が××できるんじゃないか?」

僕が増長して諫められた例

シンジはレリエルの内部で「自分の心の中にいるもう一人の自分」と対話する。

「君はその他人の中の碇シンジが怖いんだ」

「他人に嫌われるのが怖いんだよ」

「自分が傷つくのが怖いんだよ」

 

自分自身との対話を繰り広げる構図はそれ自体、シンジの自信のなさを象徴している。シンジ自身もここで言及しているように他者に対する恐怖と言い換えてもいい。自分の劣等感から逃れたい。でも現実と向き合うのは嫌だ。他者の中の自分と向き合うのが怖い。現実と向き合うことで傷つきたくない。だから劣等感を感じなくてもいい理由を探すために、自分の内側に潜り込んでいくわけである。

 

ここでシンジが電車の座席に座り、向かい側に座るもう一人の自分と対話するイメージが投入される。ここでわれわれは、第4話「雨、逃げ出した後」でエヴァから逃避して環状線に乗って一日中第三新東京市の周囲を回り続けるシンジの姿を想起することになる。現実から逃れたい。でも現実から逃げることで他者から否定されるのも怖い。その二つがせめぎあう宙づりの状態を環状線は象徴していた。

 

「悪いのは誰だ?」

「悪いのは父さんだ。僕を捨てた父さんだ」

「悪いのは自分だ」

 

僕もまた、問いかける。

悪いのは誰だ?

小学校のころ僕を支配したあいつか?

中学の頃僕をいじめたあいつらか?

高校の頃、僕の悪口を吹いて回ったあいつか?

大学に入って人生で初めて好きになった人。僕の気持ちを受け入れなかった彼女だろうか?

いや違う。悪いのは自分だ。僕は小中高と人と向き合ってこなかった。いじめられたせいもあるだろうが、向き合ってこなかったから気持ち悪がられたのもある。それで大学に入って未熟なまま人間関係をやろうとして迷惑をかけた。僕はその後に及んでも自分の気持ちから逃げ続けた。僕が二年近くも逃げ続けたのは、自分が感情をあらわにすることで、彼女や共通の友達に否定されるのが怖くて仕方がなかったんだ。自分の世界*1に引きこもっていれば恐怖にさらされずに済む。だから、今でも未熟なままだ。人を愛することが不得手なままなのだ。

 

「何もできない自分なんだ」

「何もできないと思っている自分でしょ」(ミサト)

 

僕は大学に入って、まず学問から逃げた。僕は自分は学問の代わりに人間関係をやったんだと自分を正当化していた。

 

「自分はこれでいいんだと思い続けて、でなければ生きていけないよ。」

「僕が生きていくにはこの世界は辛いことが多すぎるんだ。」

 

でも本当は人間関係からも逃げ続けた。だから人間関係だって未熟なままなのだ。

ついこの前、お世話になった人に対しての不誠実な態度を叱られた。先月は醜い嫉妬心と増長から大事な人たちを傷つけた。

僕は大学で何も学ばなかった。何もできるようにならなかった。

ただ、心地のいい空間に身を委ねて時間が過ぎていった。

 

楽しいことを数珠のようにつないで生きていけるはずがないんだよ。特に僕はね。

 

だから今、大学から放り出されることになって、怯えてるんだ。

 

楽しいこと見つけたんだ。

楽しいこと見つけて、そればっかりやってて、

シンジは叫ぶ。

何が悪いんだよーーー!!!

 

この回のエンディングはいつもと違う。インストVer.が流れる中、綾波、アスカ、ミサトのシンジへのささやきで埋め尽くされる。

 

「私のこと、好き?」(綾波

「ねえ、キスしようか?」(アスカ)

「わたしとひとつにならない?」(ミサト)

「あなたと…」(綾波

「さびしい?」(アスカ)

「心も体もひとつにならない?」(綾波

「Do you LOVE ME?」(綾波

「Do you LOVE ME?」(アスカ)

「Do you LOVE ME?」(ミサト)

 

そして、シンジの妄想の中の「女」たちの言葉が、「Fly Me To The Moon」の歌詞に繋がっていく。

 

Fill my heart with song

and let me sing forevermore

You are all I long for

All I worship and adore

In other words , please be true

In other words , I love you

 

きっと誰でもいいんだ。自分を認めてくれさえすれば……*2

*1:「かずさシステム」とか。

*2:最初は誰でもよくても、そこから中身のある関係を築いていければいいと、そう思ってきた。でもそんなこと、僕にできるだろうか。自分に何の力もないことを知られるのが怖い。自分の中身がないことを知られるのが怖い。何の力も中身もない僕に、何ができるんだろうか。