20230805

「理系就活」と「文系就活」

 

僕は1月中旬から6月中旬にかけて就職活動をしていた。その経緯はこの日のブログに書いた通りだ。

nakanoazusa.hatenablog.com

昨日、友人と「文系人間」と「理系人間」というテーマで話をしていた。僕は元々学部は文学部でそのまま院進を考えてきたが、結局、院進を諦めてWebアプリ開発の仕事に就くことになった。「エンジニア就活」は、圧倒的多数が情報系・工学系の人間の中で争うことになる。おそらく僕は、理系学部→就職という道を歩んできた人たちに囲まれて仕事をすることになるのだ。

 

理系の界隈をよく知っている友人が言うには、理系の人間の中にはプログラミングが心の底から好きで、それが仕事になって遊びながら仕事をしている人がいるという。遊び感覚で一日中コードに触れている人間は、当然能力の伸びは著しい。学生でありながら相当高い時給で働くことのできる能力を身に着けて、生活に必要なお金を最短の時間で稼いで暇を持て余しているのだという。

 

僕はプログラミングは嫌いだ。職業プログラマーを志したのも将来の展望について人に相談した時に「ちろきしんはアスペだからプログラマーになるといいよ」と言われたことがきっかけだった。やりたい仕事もなければ、人ともうまく関わる自信もない中で、なるべく人と関わらなくて済む仕事、人と関わることが苦手な人がいっぱいいる職種、それがプログラマーだった。

 

幸いにも人間関係に恵まれて力を伸ばすことのできる環境で過ごすことができ、なんとかWebエンジニアとしてある程度満足できる待遇で雇われることに成功した。それに関してはひとえにバイト先の社長が我慢して僕を使ってくれたおかげだ(今でも十分貢献できてるとは言い難いけど・・・)。感謝してもしきれない恩がある。

 

さて、最終的にはWebエンジニアとして就職することになったのだが、それまでの過程では大企業の事務系総合職の仕事も探していた。この「事務系総合職」というのは「技術系総合職」と対になる職種で、技術職以外の総合職を指す(日本企業において「総合職」は「一般職」と対になる特殊なタームであることに注意)。こちらでは逆に文系の学生が志望者の多数を占める印象だ。

 

で、就職活動においてきつかったのは圧倒的に「事務系総合職」の方だった。

 

エンジニア就活では、基本的には自分がいかに技術力を持っているかをアピールすればいい(一部の大企業では違うかもしれないが)。僕は全然その辺実力に自信はなかったのだが、バイトでの経験を有能に見えるよう装って話しさえすればいいから、企業ごとに準備の時間は大して必要ない。落ちるのは自分の力が足りなかったからで、企業対策を怠ったせいではない。

 

ところが、総合職就活は違う。いわゆる「企業研究」とやらをいかに深めていくかが大事になってくる。たとえば、「事務系総合職」で受けていた企業の中で僕が最も行きたかったD社を受けたの時の経験を話そう。D社はホワイトで有名で、OpenWorkの平均残業時間も10時間以下だ。しかもD社に入った友人のいる知り合いによると、D社の社員はかなり楽そうなのだという。楽な仕事をしてなるべく高い給料をもらいたいという平凡な欲求を最優先に就職活動をしていたので、僕は俄然やる気を出し、D社の面接官が何を聞いてくるか、それに対して僕が何を答えるかを三日かけて入念に絞り込んだ。

 

具体的にいうと、

 

・自己紹介
・職歴・インターン経験
・スキル・特技
・趣味・関心
・学生時代に頑張ったこと
・何か仕事・活動をする際に意識していること
・学生時代に苦労したこと、それに対してどのような対処をしたか
・志望動機
・他社ではダメなのか
・逆質問

 

D社が欲している人物像と自分がD社のために具体的に何ができるかを常に意識しながら、上の項目についての答えを考えていく。そうやって三日三晩片時も自分がD社のために何ができるかを考えてから面接に望むわけである。

 

結果的にD社の面接は、一次であっさり落とされた。そうして今度はまた別の企業の対策で同じことをやるわけである。こんなに頑張ったのに落ちるんだから、もっと企業が欲している人物像を演じられるようにならなければとまた焦っていく。それを繰り返した。

 

僕は普段から何かと自分の才能や努力の不足を悔んで悩んでしまうのだが、四六時中、企業のために何ができるかを考えていると、自分が就活のためにこれまで何もしなかったことが人生最大の失敗かのように思われていく。自分は企業にすり寄る学生なんかにはならないというプライドは打ち砕かれてしまった。

 

一方、エンジニア就活ではそこまで思いつめて企業の欲する人物像を演じる必要はない。総合職就活では、特にこれまで総合職がやるようなものに近い非定型業務の経験を積んでいなければ、自分のこれまでの経験以外に何もアピールできる要素はない。しかもその語られた経験も信用性にはかける。結局、面接の際にいかに予想外の質問に対して”空気を読んで”対応できるかとか、グループディスカッションでいかにうまく立ち回れるかとかそういった「企業内コミュニケーション能力」が見られるわけである。もちろん「企業研究」は前提の上で、である。

 

そういった力はどこで訓練するのかといえば、最も効率がいいのが「インターン」である。それに面接やグループディスカッションだけで学生を選別することに飽き足らない企業は「インターン」で実務能力を実際に見ていくことで企業に適応した学生を囲い込んでいく。「インターン」に行かなかった学生は、「インターン」に圧迫されて狭まれた門を企業適応訓練が不十分のまま1月以降の就職活動に勤しむことになるわけである。

 

一方でエンジニア就活はプログラミングやアプリ開発についての知識や経験があれば、その分下駄を履かせてもらえる。企業側も企業研究なんてことは比較的求めてこない。企業内適応能力のような内面の技術はあまり求めてこないし、それをインターンで鍛える必要もない。さらに、人気企業でなくても技術職は給料が人気企業の事務系総合職並みに高かったりする。確かに、その技術力を身に着けるために「インターン」に行かなきゃいけない場合もあるかもしれないけど、企業が求める人物像にならなければという強迫観念とは縁遠くいられる場所だと思う。

 

実際に内定先の会社のオフィス見学に行ってみたら、大企業の総合職ではまず見なさそうな人が多くいてここならもしかして僕でもやっていけるかもと希望を抱かせてくれた。肝心のプログラミングの力とモチベーションには不安はあるけど……。でもなんやかんや言って生きていくためなら苦手なプログラミングだって頑張れると思いたい。

 

でも怖いんだよな~~。絶対好きでやってる人の領域には届かないし。