20231219

地元に帰った。名古屋駅から名鉄名古屋鉄道)に乗る。名鉄は交通インフラを独占しているためにやたらと運賃が高い。この電車に乗って、かつての僕は、いつも『ストライクウィッチーズ』の曲を聴き、高校に通っていた。あの頃、僕を支えていたのは、『ストライクウィッチーズ』のオタクであるというアイデンティティだけだった。その他のことは何も自信がなかった。家にも学校にも、居場所はなかった。下らないプライドで人と触れ合うことを拒絶していたが、その実、寂しかった。当時は何かで自分を支えていないと生きていけなかった。アイデンティティは生存の問題だった。だから『ストライクウィッチーズ』のオタクであるというアイデンティティをでっち上げ、そのアイデンティティと自分を同一化しようとした。

 

今考えたらなんとか外界のことに目を向けないようにしていたのかな。きっと現実の世界が怖かったんだ。昔から劣等感が強くて、現実世界では自分に何の魅力もなくて、交際相手どころか友達すらいなくて。ああ思い出した。僕は本当は彼女が欲しかったんだ。だって、高校の学祭で同級生が彼女を連れて歩いているのを今でもはっきり覚えているんだから。当時はそんな自分の気持ちには気づけなかった。いや、気づかないようにしてたんだ。気づいてしまったら最後、恋愛競争で圧倒的に劣る自分に直面することになるから。昔から努力しないくせにプライドばかり大事にしていた。

 

今も昔も、カップルをみるといつも目で追ってしまう。当時はどんなことを考えていたんだろう。きっとずっと、羨ましかったんだと思う。ときには街で見かけた女性の記憶を自室に持ち帰り、・・・ということもあった。僕はAVがどうにも苦手だった。性ではなく愛、もっといえば愛にともなうものとしての性が欲しかった。

 

基本的には二次元の女性が好きだった。いや、そう思い込もうとしていた。当時もし、自分のことを愛してくれるかもしれない女性がいたらその人のことで頭がいっぱいになっていただろう。当時、二次元の女性に何を求めていたかを考える。

 

あれ?

 

僕はさきほど、愛されたかったと言った。それは間違いではないが、修正しなければいけない。必ずしもいちゃらぶな場面ばかりを妄想ばかりしていたわけではないかもしれない。そうだよ。「好きだ」「好きだ」と自分のことを愛してくれないキャラクター*1の体にむしゃぶりつく妄想に励んでいたんじゃないか。

 

そうか。僕は愛したかったんだ。愛する人に「好きだ」って言いたかった。AVに出てくる女性は自分が好きと言っても受け入れてはくれない。なぜなら現実に人格をもって存在しているからだ。でも、二次元の女性なら――。

 

二次元の女性なら人格は自由に想像で組み替えられるし、人格を替えたくないなら時間軸をいじればいい。大学で憧れのキャラクター*2と出会い、恋仲になる妄想もよくしていた。友達もできないのに、恋人なんてできるはずないのにね。二次元の女性の人格と未来の改変可能性は、当時の僕にとって唯一の欲望を満たす手段だった。現実の人のぬくもりに本当はものすごく憧れていたのに、どうしようもない自分から目を逸らすことしか考えていなかった。人間関係がとにかくできない僕にとって、あまりにも、あまりにも、誰かと恋仲になるという世界は遠かった。

 

名古屋駅は楽しそうなカップルで溢れかえっていた。大学生くらいだろうか。高校生のカップルもいた。かつての僕はここで、湧き上がる欲望を、憧れを、否定して、隠して、そのためにイヤホンで耳をふさいで、現実の世界から、自分の欲望から、必死で臆病な心を守ろうとしていた。

 

ほんとうは触れたかった。欲望を向けることを許されたかった。「好きだ」って誰かに語りかけたかった。手を繋ぎたかった。抱きたかった。キスしたかった。その先は、当時はまだ想像できなくて*3、でもきっと望んでいた。

 

だけど、そのどうしようもない憧れに気づいたら全てが終わる気がしていた。現実が、人間が、怖くて仕方なかった。自分の世界が、何よりも大事だった。

 

*1:ストライクウィッチーズ』のサーニャちゃん。エースパイロットであるサーニャちゃんは基地の整備兵のひとりである僕に性欲を向け行為はしてくれるものの、愛してはくれない。日替わりで他の整備兵とも行為をしていて、やめてと言ってもやめてくれないのだ。そういう設定。

*2:これは超能力麻雀漫画『咲』シリーズの園城寺怜ちゃんだ。怜は麻雀推薦で大学に入るも挫折し、麻雀をやめて僕との愛に生きることになる。怜に麻雀をやめさせたのは、僕が部活のできる人と釣り合わないような気がしたからだ。もっといえば、何かに真剣に打ち込んで結果を出している人が怖かった。努力のできない僕を否定してくるんじゃないかって。自信がなかったんだ。

*3:AVも18禁の漫画とかも見なかったからね